2012.3.28 17:48

「雪虫」

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3月に入り天気の良い日に森の中を歩いていると、黒い昆虫が雪上を歩いているのを見かけます。
カワゲラやユスリカの仲間たちなのですが、その中でも翅(はね)のないカワゲラはセッケイカワゲラといいます。


今日もたくさんのセッケイカワゲラがせっせと歩いていました。
虫の存在を忘れてしまう厳しい冬が過ぎ、太陽の下、一面の雪の上をえっちらおっちら歩いている姿は、
「春だな~。暖かくなってきて虫も喜んでるんだなぁ~」
と、ほのぼのと感じます。




セッケイカワゲラは春の季語にもなっていて、歳時記でいう「雪虫」。
北海道で「ユキムシ」というと初雪の到来を告げる晩秋の虫なのですが、歳時記ではそちらは「綿虫」。
春の雪虫(=セッケイカワゲラ)は、「雪消し虫」とか「雪解虫」などとも言われます。
やっぱり人間にとっては、春到来!のムシなんです。


しかし、このセッケイカワゲラ、暖かさを喜んでいるわけではなさそうで・・・。


生きていける温度域は-10℃~+10℃くらいと言われています。
手の上に乗せただけで、人間の体温で体が麻痺してしまい、動きが鈍ってしまうほど。
+20℃ほどの気温になると死んでしまいます。


生活史もなかなかユニーク。
生活の場は年間を通して水温の低い川。
春~夏まで幼虫は水中の中でほとんど成長せずにじっとして、秋に落ち葉などを食べながら急速に成長します。
そして冬になると、成虫となって陸に上がります。


さてそこからが試練。
水の中にいる幼虫時代は、川の流れによってどうしても下流側に流されてしまいます。
成虫になってそのまま産卵すると、川の下手の方にばかり卵が溜まってしまいます。
それではイカン。


そこで、翅(はね)を持たない成虫は、幼虫時代に流されてしまった分を取り返すべく、上流に向けて歩き出します。
しかも気温が上がっちゃったら、動けなくなっちゃう・・・。
なんとか寒いウチに上流に着かねばなりません。
体長1センチほどの体にとっては、数百m、時には数kmの道のりは果てしないわけで・・・。
そりゃ必死でしょう。



しかしどうして、“自分が今、川沿いを歩いている” と分かるのか、不思議に思ったことがあります。
1センチほどの虫の視界では川は見えてないだろうに・・・。


やっぱり同じような疑問を持って研究する人がいるもんで、
どうやら、体内に太陽コンパスをもっていて、方向を間違えずに歩けるらしい。
しかも、体内に傾斜計まで持っていて、体の片側が傾き続けていることで、川沿いの傾斜を感知するらしい。
すごいですな・・・。


じゃ、“何もない雪の上で何食ってんの?”と、またギモン・・・。
いやいや、小さな虫にとって雪の上は豊穣な大地だと。
微生物や小さな虫の死骸、藻や苔の類、動物の糞などなど。
小さな体を維持するには十分すぎるほどの食料が、真っ白な雪面には広がっているワケであります。



こんなことを知らないワタシは、暖かくなったのを喜んで歩き回っている、などと勝手に思っていたわけですが、
「産卵と寒さ」いうタイムリミットに向けて、必死に歩いているのでした。
人間の尺度でモノを見てもなんにも分からないわけで、「知る」と180度違う“目”で見えてきます。

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