2019.4.11 13:40

奥入瀬渓流野草ハンドブック

私の今までの経験では、たいていのお客さんとの自然に関する最初の質問は、足元の目立つ花を見て「これ、何ですか?」から始まります。


一般的には、鳥や動物は動いちゃうので見るのが難しいし、昆虫や地質の分野はすでにお客さん自身にある程度の興味の方向性が決まっていることが多く、マクロの世界の美といった部分も最初からは気づきにくい部分。
自然ツアー(自然散策)が初めてのお客さんにはやっぱり「自然=花」が分かりやすく、自然の入り口としてとっつきやすいものです。


自然ツアーでも、ガイドから話すことよりも、お客さんの興味や質問を優先すればするほどこんな傾向が強くなるものです。
なので、自然ガイドになりたての人は、自身に興味があろうがなかろうが、自分のフィールドに咲く花くらいは知っている必要があります。


ちなみに学校でも、自然を見る第一歩は、よく見られる花をひと通り知ることから始めます。
そこから自身の興味次第で、鳥や動物、昆虫・地質・菌類…などの各分野に深めていきます。
まずはお客さんの質問のニーズに、自分の知識量を合わせる必要があります。


こんなふうに、ガイドだって自然をみる第一歩として花々を勉強するのですが、興味がないのにただ覚えるのはツマラナイ。


まずは、自分が良く歩く場所の『目立つもの(=花が咲いているor個体数が多いor形が特徴的など)』を、見つけ(見分け)ながら歩く訓練をします。
あわせて、それについての興味深い雑話を知ると、より記憶に刻まれます。


自分で気づけた花を観察し、おぼろげながらでも名前が分かり、それを拾いながら歩けるようになると新たに分からないものに気づけるようになり、自身の「分かるバリエーション」が増えていきます。
『知るからこそ、見えてくるモノ』があるんです。
そのための見方や覚え方・興味の深め方、という部分を知ると、あまり苦もなく頭に入るものです。


そんな自然の知り方を知らない若き自然ガイドは(名をヤブキという)、手当たり次第に見たものを調べ、それでも分からず、そのまま何年も分からないままの時間を過ごして、遠回りを繰り返し……何度も挫けそうになったとさ……。


◆◆


先日も酒を酌み交わしながら語り合った河井大輔氏から、新しい本が届きました。
河井大輔著『奥入瀬渓流野草ハンドブック』
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美しい花の写真と、つぼみ・開花直後・花・実といった各成長ステージの写真が多用されていて、文章部分ではその花についての ”あれこれ話し” が紹介されています。
この ”あれこれ話し” がその花についての興味を掘り下げます。


この本では識別のための詳細な記述はありませんが、それよりも、その植物への興味を深めることで記憶に落とし込み、再び気づくためのハンドブックになっています。


自然を楽しむために観光に訪れた人は、足元の花々を眺めながらふらっと歩き、美しさを愛で、写真を撮り、ホテルで寝転びながらこのハンドブックをめくっていれば、今日見られたたいていの花が見つかるでしょう。
名前が分かればやっぱり嬉しい。何も分からないよりは分かったほうがいい。
そして、その花についての “あれこれ話し” で、記憶により刻まれるでしょう。


そうして翌日にもう一度同じ場所を歩いてみれば、前日にこの本で調べた花をより深く見られるようになります。
そして、前日には気づけなかった別の花々にも気づけるようになるでしょう。


プロの自然ガイドだろうが、初心者だろうが、こんな経験の積み重ねに楽しさのひとつがあることは間違いありません。それが、自然を見られるようになる、ということにも繋がります。


そんな、自然に気づく手がかりに、こんな本を片手に歩いてみるのもいいですね。


その地域の自然を知ろうとする人の絶対数は一般観光客に比べて少ないかもしれませんが、そんな数少ない人たちにも『地域の自然を知る手がかりがある』ということ―、さらには『一冊の書籍が、その地域の自然のひとつの記録として残る』ということは素晴らしい地域資源となりますね。

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