
ワタシの冬のツアーでは、歩き出す前に
「ウェアのポケットのチャック、閉まってますかー?もしも開いていてポケットの中身を雪の中に落としたら、回収不可能となりますよぉー。はぁーい皆さん、チェックしてー」
という儀式があります。
ニセコのように、軽い雪が数mも積もっている中で鍵やらカメラやらを落とせば、あっという間にズブズブ~っと埋まってしまいます。
しかもワタシのツアーで歩いている場所は、夏の遊歩道などはない場所なので、雪がなくなれば一面の笹薮の森。ヤブの中に埋もれてしまいます。
雪の森での落とし物は、雪がなくなっても回収不可能なのです。
さて、今年の1月のツアーの際、ツアーが終わって車に乗ろうとしたら、
「あっ、カメラがない!」
と、お客様談。
カメラホルダーにしっかりと付けていたのに、何かの拍子で外れて、どこかに落としてしまったようです。
すぐに森の中に戻って探してみましたが、不用意に歩き回るとかえって見つけられなくなると思い、5分程度探した後に半ば諦め、とりあえず宿にお送りしました。
お別れする際、お客様はすっかりブルー……。そりゃそうですよね……。
さてさてワタシは、お客様を送迎後すぐに現地に戻り、探し回る前に作戦を考える。。。
まずは自分のカメラを雪に落としてみて、今日の雪質ではどのくらい沈み込むのか実験。
すると、2メートル近い積雪の上に前日の軽い粉雪が数十センチも積もっているので、50センチ以上は雪の中に沈み込んでいきます……。あやうく、自分のカメラも発見不可能になるところでした。
となると、今日明日でがむしゃらに探しても見つかる可能性はとても低いわけで。なにせ、数kmは歩いてますから。
まずは、新たに雪が降ってしまう前に、ツアーで歩いたルートを正確に記録する必要があります。
そこで、まだ残っているツアーの踏み跡を正確にたどり、GPSで軌跡データを残す―これでいつになろうが、2~3mの誤差で今日歩いたルートをたどることが出来ます。
そしてワタシがツアー中に撮ったお客様の写真を拡大して見比べ、“カメラがまだカメラホルダーについている場所” から落とした場所を推定します。
まさに「砂の中から針を探す」作業になりますが、そこは文明の利器を使い、人間の知恵をフル活用すれば見つけられる!(かも?)なのです。
あとは、落としていそうな場所を重点的に雪を掘りながら捜索。もうこれしかありません。
……しかしさすがに見つからず。
季節は厳冬期の真っ只中。
数日で雪はどんどん積もってしまい、もう捜索不可能となりました……。
そして3月も半ばを過ぎて少しずつ雪が溶けてくると、GPSの軌跡データが役立つ季節になりました。
雪が数十センチ減ればGPSで正確にたどりながら歩き、また数十センチ減れば歩く。
5月に入って雪が完全になくなったら笹薮に埋もれてしまうので、それまでが勝負です。
そんなこんなを繰り返して、ゴールデンウィーク。積雪量が残り50センチ程度になってタイムリミット間近な頃…………
いつものように仕事の合間に歩いていたら、残雪の森の中に小さな物体がポツンと。。。
神が降りました。
思わず、「あ゛ぁぁーー!あったぁぁぁーーー!!」叫んでしまいましたよ。静かな春の森で、ひとり雄叫び(笑)
3ヶ月以上ぶりに回収です。
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しかしこれからが大事。
お客様が落としたカメラはワタシと同じ防水カメラだったのですが、さすがに3ヶ月以上も雪に埋もれていたせいでモニタやレンズは結露しまくり。
電池はまず残っていないでしょうが、かといって不用意に電源を入れて万が一通電したらショートを起こして壊れてしまうかも。
まずは電池を抜いてワタシのカメラで充電し、フタの類を全開にして乾燥剤やら太陽のチカラを借りてカメラ本体内部をゆっくりと数日間かけて乾燥。焦ってドライヤーでの乾燥は禁物です。
すると3日ほどで結露は消え、綿棒で小さなゴミを掃除し、満タンになった電池をセット。ドキドキしながら電源を入れてみたら……なんと!ON!!フツーに使えそう!!
さすがにお客様のメモリーカードまでは確認するわけにもいかないけれど、本体が大丈夫なくらいだからきっとメモリーカードも大丈夫でしょう。
ワタシ的には、カメラ本体の金額的損失よりもメモリーカード内のご旅行の思い出までも失くしてしまったことがとても心苦しかったので、少し安心しました。
あとはお客様にお送りして、画像データを確認してもらうだけです。
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カメラを発送してから、数週間後―。
お客様から手作り写真集が届きました―中身はニセコでのご旅行の写真の数々。

とてもとても、嬉しい出来事でした。